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がん治療の効果を高める3つの方法

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ここではがん治療の効果を高める可能性のある3つの方法を説明します。いずれもまだ確立されたものではなく、ガイドラインなどで説明されているものではありません。しかし、基礎研究や動物研究で効果的であることが報告されています。

がん治療の効果を高める可能性のある方法は以下の3つになります。

(1) 腫瘍微小環境(Tumor microenvironment: TME)のアルカリ化
(2) 腸内環境の改善
(3) 免疫の回復(Immunosurveillance: 免疫監視の回復)

これらは、単純に薬を服用するだけの方法ではないので、現時点では臨床的に調べることが難しいという側面もありますが、多くのがんサバイバーに共通した特徴でもあります。

(1) 腫瘍微小環境(Tumor microenvironment: TME)のアルカリ化

がん細胞というのは、ただ単純にがん細胞が集まって腫瘍をつくっているだけではありません。本来ならアポトーシスや免疫細胞などによって排除されるべきだった異常細胞が生き延びてがん化していった細胞によってつくられます。その際、正常細胞とは異なる代謝を獲得し、がん細胞が生存しやすい環境を形成していきます。それが、腫瘍微小環境(Tumor microenvironment: TME)と呼ばれ、がんの大きな特徴でもあります。

TMEの特徴については、このサイトでも何度かとりあげています(がん細胞のpHの特徴:がん細胞内のアルカリ化とがん細胞外の酸性化)。

TMEのアルカリ化はがん治療の効果を増す

重要なことは、がんの細胞内はアルカリ性、細胞外となっていることであり、TMEは酸性化が、がんの進行、薬剤耐性に関わることです。酸性のTMEをアルカリ化すると、がん治療の効果が高まることが報告されています。

例えば、TMEをアルカリ化すると、がん細胞に対する抗がん剤の取り込みが増え、効果が増すことが報告されています(上図、右のグラフ。白線はアルカリ化した状態で、より腫瘍が縮小している)。同様に、免疫チェックポイント阻害剤(がんと免疫:免疫チェックポイントのおはなし)に対しても効果が増す可能性があることが報告されています(下図。アルカリ化作用のある重曹との併用で効果が増す)。しかし、全ての抗がん薬に対して効果があるかはまだ調べられていません。

TMEをアルカリ化する方法

TMEをアルカリ化する方法は、大きく分けて2つの方法があります。以前にこのサイトでも紹介しています(アルカリ化するための2つの方法)。

1つ目は食事です。野菜・果物をしっかりとって、肉類、乳製品類を控えた食事はアルカリ化食(Alkaline diet)と呼ばれ、アルカリ性の作用をもつ食事です(アルカリ化食(アルカリンダイエット: Alkaline diet)とは?)。この食事によってTMEまでアルカリ化するかどうかはまだ証明できていませんが、尿のpHはアルカリ化を示すようになり、体内から排出される酸性物質が減ることがわかっています。

2つ目は薬剤です。重曹(炭酸水素ナトリウム)は胃薬として使われていますが、酸の中和剤として、TMEのアルカリ化のための基礎研究でも用いられています。重曹の説明については、こちらも参照ください(アルカリ化療法(アルカリ化食 + 重曹))。もう一つの薬剤としてウラリットというものもあります。これは、痛風や高尿酸血症における酸性尿の改善のために使われ、クエン酸が含まれていることから、アルカリ性作用をもっています。重曹もウラリットも安全性の高い薬ではありますが、副作用がないことを管理しながら使う必要があります。そのため、まずはしっかり食事で取り組むのが安心です。

参考文献)
Raghunand N, He X, van Sluis R, Mahoney B, Baggett B, Taylor CW, et al. Enhancement of chemotherapy by manipulation of tumour pH. Br J Cancer. 1999;80(7):1005-11.
Pilon-Thomas S, Kodumudi KN, El-Kenawi AE, Russell S, Weber AM, Luddy K, et al. Neutralization of Tumor Acidity Improves Antitumor Responses to Immunotherapy. Cancer Res. 2016;76(6):1381-90.

(2) 腸内環境の改善

腸内環境とがんの関係に関する報告は増えてきています。まず、腸内環境が悪いとがんのリスクになることが報告されています。例えば、マウスに高脂肪食を与えると、腸内細菌叢が変化して2次胆汁酸が増え、これが腸肝循環で肝臓に取り込まれ、肝臓に炎症を起こし、肝がんを引き起こします。これ以外にも、肺がんや大腸がんなどにも影響する可能性があることが考えられています。

また、がん治療の効果に腸内環境が大きく関わっていることが報告されています。下記は、肺がんと腎細胞がんの患者さんで、抗生剤の有無で治療成績(生存率)が変わることが示された図です(黒線が抗生剤を使っていない例、赤線が抗生剤を使っている例)。抗生剤は細菌感染の際には不可欠な薬剤ですが、抗生剤は腸内の善玉菌も殺しますので、腸内細菌叢を乱すことがわかっています。つまり、抗生剤で腸内細菌叢が乱されると、がん治療の効果が低下する可能性が高いのです。がん治療の効果が高かった人の腸内細菌叢を取り出し、マウスに移植するFecal microbiota transplantationという方法で、がん治療の効果が高まることも報告されています。

腸内環境を改善する方法

がん治療の効果を上げるための腸内環境の改善方法はまだ確立されていませんが、日々の食事が重要であると考えられています。また、便通の異常は腸内環境があまり良くないサインの一つでもあります。

腸内環境を悪化する可能性があるものとして、高脂肪食や加工品や菓子類に含まれるトランス脂肪酸が挙げられます。腸内環境を改善するものとしては、食物繊維の摂取がすすめられます。やはり、アルカリ化のときと同じように、野菜・果物をしっかりとって食物繊維を摂取することと、脂肪分を抑えるために肉類、乳製品類を控えることが、腸内環境の改善につながると考えられます。ヨーグルトには善玉菌が含まれていますが、乳製品自体に賛否両論がありますので、豆乳ベースのヨーグルトはより安心かもしれません。このような食事によって便秘症状などが改善すれば、腸内環境もよくなってきている考えられるかもしれません。

薬剤を使う方法として、整腸剤の摂取も効果があるでしょう。整腸剤はいくつか種類がありますが、善玉菌を入れる方法になりますので、腸内環境の改善が期待できます。また、上記でも少し説明したFecal microbiota transplantationという方法はまだ確立されていませんが、今後治療法の一つとなる可能性があります。

参考文献)
Routy B, Le Chatelier E, Derosa L, Duong CPM, Alou MT, Daillere R, et al. Gut microbiome influences efficacy of PD-1-based immunotherapy against epithelial tumors. Science. 2018;359(6371):91-7.

(3) 免疫の回復(Immunosurveillance: 免疫監視の回復)

抗がん剤の役割の一つは、腫瘍を小さくして体内から排除することです。例えば、血液のがんなどでは、強力な抗がん剤を使って、血液内のがん細胞を徹底的に叩くことで治癒を期待できる場合もあります。

しかし、多くの固形がん(血液がん以外の臓器にできたがん)で進行した状態の場合、抗がん剤の効果は限定的であり、その効果は治癒ではなく延命を期待したものです。強力に行ったとしても、がん細胞を体内から完全に排除することが難しいためです。

そこで、抗がん剤が長期的に効果をもたらすかどうかは、がん細胞に対する免疫の状態である免疫監視(immunosurveillance)の回復に関係があるとの報告があります。つまり、がん細胞に対して体内では免疫細胞が抗がん性に働きますが、がん細胞は同時に免疫を抑えてしまいます。このとき、抗がん剤によって壊されたがん細胞の一部は異物と認識され、抗原提示細胞や免疫細胞に対して免疫を強化するように作用することが考えられます。また、免疫刺激性細胞や免疫抑制性細胞に対しても影響を及ぼし、免疫能に影響を与えることが考えられます。

一方で、抗がん剤によって免疫細胞ごと死滅するような場合、あまりうまくいかないことが考えられます。上記のような抗がん剤による免疫監視の回復が期待できなければ、一時的には腫瘍が小さくなったとしても、長期的な効果は望みにくいのです。今まで、進行期のがんに対して強力に抗がん剤を行なったとしてもほとんど治癒が期待できず、延命程度の効果しか得られなかったのも、免疫監視の回復の視点が抜けているからかもしれません。

免疫を回復する方法

免疫能を落としすぎないように抗がん剤を使う方法が考えられますが、この方法はまだ確立されていません。現在行われている細胞障害性抗がん剤のほとんどは、がん免疫の重要性が明確になっていないときから使われていますので、ひどい副作用のギリギリまで最大限に投与するという方法が主体です。そもそも免疫能の詳しい評価も確立されていないという現状もあります。

抗がん剤治療の目的が、治癒を目指したものではなく延命である言われてしまった場合、抗がん剤を強力に行なったとしてもその分に見合った効果は期待できないかもしれません。むしろ、免疫の回復(Immunosurveillance: 免疫監視の回復)の観点からすると、抗がん剤治療を無理しすぎないという方法が考えられます。白血球数やリンパ球数が下がりすぎないくらいの、また、自覚的な副作用が強く出ない程度で行うことは、免疫能を落とし過ぎず、免疫の回復につながるかもしれません。

免疫には抗がん剤の影響が最も強いですが、食事や生活習慣も免疫には関係します。まず、野菜・果物の摂取は炎症を抑えて、免疫の回復に役立つ可能性があります。また、キノコ類は免疫刺激作用があるため、免疫賦活作用が期待できます。生活習慣では、体温が免疫に関係すると考えられていますので、低体温にならないようお風呂などでよく体を温めることが重要です。また、適度な運動も免疫の改善に関係すると考えられています。

参考文献)
Galluzzi L, Buque A, Kepp O, Zitvogel L, Kroemer G. Immunological Effects of Conventional Chemotherapy and Targeted Anticancer Agents. Cancer Cell. 2015;28(6):690-714.







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Dr. Hamaguchi(医師、医学博士)

  • 日本内科学会総合内科専門医
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  • がんの炎症・代謝を考慮したがん治療やがんに関する情報についての発信をしています。

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