がん細胞のpHの特徴：がん細胞内のアルカリ化とがん細胞外の酸性化

全てのがんに共通した大切な２つの特徴がある

正常細胞とは異なるがん細胞の特徴の一つは、エネルギーを糖代謝（好気性解糖）から作ることです。

そして、もう一つの重要な特徴は、がん細胞の内部と外部のpHのバランスにあります。

正常細胞では細胞内のpHは細胞外に比べてわずかに酸性となり、細胞外のpHはわずかにアルカリ性となっています。一方、がん細胞では細胞内pH（pHi）はアルカリ性、細胞外pH（pHe）は酸性というバランスを保っているのです。

①解糖系の亢進

②がん細胞内のアルカリ化

この２点は全てのがんに共通した特徴と考えられています。

＊pHは、酸性、アルカリ性を程度を示す指標で、7.0が中性、7より小さければ酸性、7より大きければアルカリ性です。

  

がん細胞とpHの関係

実は、がん細胞内がアルカリ化だとわかったのはここ十数年のことです。今まではがん細胞は酸性と考えられていましたが、がん細胞内はアルカリ化、がん細胞外は酸性という明確なpHの差があり、これががんの発生や進行に関わっていることがわかってきました。がん細胞とpHについて調べた基礎研究もどんどん増えてきています。

  

がん細胞内アルカリ化のキー：NHE-1

がん細胞内のアルカリ化は、がん細胞の発生にとってかなり本質的な変化であり、がん細胞ができるときの悪性転換にも直接的な役割を果たしていると報告されています。

この細胞内のアルカリ化を引き起こすキーとなるのが、Na+/H+ exchanger-1（NHE-1）という物質です。NHE-1は、ナトリウム（Na+）と酸であるプロトン（H+）を交換する交換器です。

がん細胞内では、解糖でエネルギーを作る際に乳酸という酸が同時につくられます。NHE-1は、がん細胞内にある酸（H+）をナトリウムと交換に外に放り出して、細胞内をアルカリ化、細胞外を酸性化するのです。このNHE-1は、正常細胞では細胞内が酸性になったときにだけ働きますが、がん細胞で常に活性化しています。

  

（参考文献）

Neri D, et al. Nat Rev Drug Discovery. 2011;10:767–777.

Cardone RA, et al. Nat Rev Cancer. 2005;5:786-95.