がんの特徴

がん細胞がエネルギーを作るために糖代謝(好気性解糖)を行う理由

投稿日:2018年11月6日 更新日:

がん細胞は、エネルギーであるATPをつくるためにワールブルグエフェクト(Warburg effect)と呼ばれる糖代謝(好気性解糖)を行います。つまり、糖分(グルコース)を取り込んで、それを処理することによってATPを作っています。


がん細胞が解糖系でエネルギーを作ることのメリットは3つある

① 効率的にエネルギー産生ができる

正常な細胞では、ミトコンドリアで行われる酸化的リン酸化という反応から大部分のATPが作られます。これは、電子(e)の受け渡しによる酸化還元反応(電子伝達)と、それに伴って形成されるプロトン(H+)の濃度勾配による電気化学ポテンシャルがATPに変換されます。そして、この反応には電子(e-)の受け皿となる酸素(e-を吸収して水になる)が必要です。つまり酸素が必要な反応です。

がん細胞は、無秩序に成長した細胞の塊です。そこにはいびつな血管しかなく、酸素や栄養が届けられないのです。そのため、がん細胞はATPを作るために解糖系をどんどん回すことが必要で、その方が効率が良いのです。

② エネルギーだけでなく、高分子をつくる

糖代謝はATPを作るだけの反応ではありません。糖代謝の経路には枝分かれがあり、ペントースリン酸サイクルという重要な経路があります。ペントースリン酸サイクルでは、生合成の前駆体として重要な2つの物質がつくられます。

一つは、リボース5-リン酸です。これは、核酸の構成成分であり、分裂中の細胞ではDNA合成のために大量のリボース5-リン酸が必要となります。

もう一つは、NADPH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)です。細胞にとって必要な脂肪酸の合成の際に、大量のNADPHが必要となります。

つまり、がん細胞は解糖系を活性化させてATPをつくると共に、ペントースリン酸サイクルから、新たながん細胞をつくるための材料もつくっているのです。

③ レドックス制御(酸化還元反応の制御)

ここでもNADPHが役に立ちます。NADPHは還元作用を持ち、様々な酵素反応の補酵素として働いたり、分子の生合成にも関与します。また、NADPHには抗酸化作用があります。がん細胞は増殖スピードの速い細胞です。このような増殖中の細胞では、活性酸素が多くつくられます。NADPHは、この活性酸素を除去するのです。

がん細胞が増殖していくためには、酸化還元反応であるレドックス反応を制御することが重要になるのです。そして、そのために使われるNADPHを糖代謝(好気性解糖)から得ているのです。

(参考文献)

Cairns RA, et al. Regulation of cancer cell metabolism. Nat Rev Cancer 2011;11:85-95.







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Dr. Hamaguchi(医師、医学博士)

  • 日本内科学会総合内科専門医
  • 日本呼吸器学会呼吸器専門医
  • 日本がん治療認定医機構がん治療認定医
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  • がんの炎症・代謝を考慮したがん治療やがんに関する情報についての発信をしています。

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