がんは、正常細胞とは異なる環境、つまり、がん微小環境(Tumor microenvironment)を形成しています。がん微小環境の大きな特徴は、解糖系の亢進と主にNa+/H+ポンプによるがんの細胞内アルカリ化と細胞外酸性化でした。がんの細胞内がアルカリ化し、細胞外が酸性化することで、がんが生存しやすい環境となり、がんを排除するための免疫細胞や治療薬の効果が弱まることがわかっています。
Na+/H+ポンプにはいくつか種類がありますが、NHE1というのが代表的なポンプであり、これの働きを抑えることを目指して治療薬が開発されたこともありましたが、残念ながらうまくいっていません。そこで、これ以外のアルカリ化の方法として、アルカリ化食と重曹によるアルカリ化療法について説明します。
アルカリ化療法は、アルカリ化作用があるアルカリ化食(アルカリンダイエット)をベースにして、上手に重曹を組み合わせてアルカリ化の効果を高めることを目指した方法です。
アルカリ化食は、アルカリ作用の野菜・果物をしっかりとって、酸性作用の肉類や乳製品を控える食事です(アルカリ化食(アルカリンダイエット: Alkaline diet)とは?も参照ください)。
ここでは、特に重曹について説明します。
重曹のアルカリ化作用
重曹は炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)ともいい、医薬品としては、酸の中和剤として胃薬やアシドーシスの補正(体が酸性に傾いた時の補正)などに使われています。
重曹がどのようにしてアルカリ作用を示すかは、下記の化学式で確認することができます。
NaHCO3+ H2O ⇄ (Na++ OH–) + (H++ HCO3–)
(H++ HCO3–) は酸性作用を示しますが、完全に電離しません。一方、(Na++ OH–) は完全に電離するため、重曹はトータルでみてアルカリ化作用を示すことになります。
重曹は胃薬として一般的に使われ、薬局でも購入することができる安全性の高い薬剤です。重曹を服用した際の安全性を調べる試験も行われています。アメリカで行われたこの試験では、1日あたり最大で0.5 g/kg(1日量だと、20-30 gくらい)というかなり大量の重曹を90日間服用してどのような変化があるか調べられました。この試験では何か症状があれば減量することが可能であり、最終的には0.17 g/kg程度(1日量で12-13 gくらい)に落ち着いています。ちなみ、日本での投与量は、せいぜい0.1 g/kg程度です。
さて、この試験では大量に重曹を服用したこともあり、下痢や腹部膨満感などの胃腸障害がみられましたが、減量することで症状が落ち着き、重曹は安全に使用することができるだろうと結論づけられています。
また、下記の図のように、重曹を服用した後の尿のpH値は、重曹を服用する前のpH値に比べて上昇しており、アルカリ化作用があることがわかります。ただし、中には重曹服用後にも関わらず、pHが下がっているケースもあります。おそらくこれは、重曹以外の食事の影響もあるかもしれません。そのため、ベースとしてアルカリ化食を行うのも重要と考えられます。
重曹の服用方法
上記の臨床試験では、かなり大量の重曹が使われましたが、通常の重曹の服用量は、1日に3.0-5.0 g程度です。薬局で買える重曹(炭酸水素ナトリウム)は、目安として1日に3.0 gとしています。また、医療機関で処方される重曹は、通常、1日5.0 gまでになっています。
飲み方は、粉末や錠剤のまま服用することもできますし、水に溶かして服用することもできます。食後すぐに飲むと、食べ物と混ざって膨満感を感じやすい場合があるので、食間の方が良いかもしれません。数回に分けて飲んでも、1日に1回で飲んでも問題ありません。
注意事項としては、下痢や膨満感などの胃腸症状がでる場合には、量を減らしたり、服用回数を増やして、1回に飲む量を減らすなどの工夫が必要です。また、ナトリウムが含まれているので、高血圧の方や日頃塩分が多い方は注意が必要です。そして、他に薬を飲む場合には、薬の吸収が変わる場合があるので、服用タイミングをずらす方がよいでしょう。
参考文献)
Ana Maria Lopez,IanF.Robey. Journalof IntegrativeOncology. 2014
[…] […]
[…] y”というがん研究に関する国際的な学術雑誌があります。その雑誌の編集者より、「アルカリ化療法」に関する特別号のリサーチトピックの立案とゲストエディターとしての参加を依頼 […]
[…] いますが、腫瘍の進行、薬剤耐性に関わっている腫瘍微小環境(Tumor microenvironment: TME)の酸性環境を中和し、腫瘍の進行の抑制と薬剤耐性の緩和を期待した療法です。詳しくはこちらへ。 […]