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がん治療における天然製品の有用性 ーアルカリ化療法との併用ー

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植物、動物、微生物など、自然界から得られる天然物質は、多くの伝統医学において何世紀にもわたって様々な病気の治療に用いられてきました。これらの天然物質を基にして作られる天然製品は、サプリメントや健康補助食品として広く利用されています。これら製品に含まれる成分は、抗酸化作用、抗炎症作用、そして抗がん作用を持つことが報告されており、従来のがん治療の副作用を緩和することや、全体的な健康維持をサポートすることが期待されています。

天然製品とアルカリ化療法の併用

私たちのグループでも病状に応じて天然製品を利用しており、標準治療に加えて天然製品とアルカリ化療法の併用を行い、長期生存が得られた進行がん(転移性 or 術後再発)について論文報告をしています(M Isowa, R Hamaguchi, et al. Exploring the Potential Use of Natural Products Together with Alkalization in Cancer Therapy. Pharmaceutics 2024, 16(6), 787)。

上の図は、各種の進行がん(転移がある or 手術後の再発)の患者さんで、標準治療に加えて天然製品とアルカリ化療法の併用により長期生存(5年以上(1825日以上))が得られた方の生存期間(論文報告時点)をまとめたものです。縦軸は天然製品とアルカリ化療法の併用を開始してからの生存日数、横軸はがんの種類(左から順番に、Non-small cell lung cancer:非小細胞肺がん、Breast cancer:乳がん、Hepatic cancer:肝がん、Gastric cancer:胃がん、Colon cancer:大腸がん、Small cell lung cancer:小細胞肺がん、Pancreatic cancer:膵がん、Prostate cancer:前立腺がん、Oropharyngeal cancer:口腔咽頭がん、Thymic cancer:胸腺がん、Kidney cancer:腎がん、Duodenal papillary cancer:十二指腸乳頭がん、Uterine cancer:子宮がん、Cancer of unknown primary:原発不明がん)を示しています。なお、オレンジ色で示された非小細胞肺がんの患者さん1名と膵がんの患者さん1名は、がんとは関係のない病気で亡くなられています。

アルカリ化療法について

このブログでも繰り返し説明をしていますが、腫瘍の進行、薬剤耐性に関わっている腫瘍微小環境(Tumor microenvironment: TME)の酸性環境を中和し、腫瘍の進行の抑制と薬剤耐性の緩和を期待した療法です。詳しくはこちらへ。

天然製品について

抗炎症、抗酸化、免疫調整、および、抗がん作用が期待される天然物質を含んだサプリメント、健康補助食品を用いています。下記に各種天然物質について記載します。

1. トリテルペノイド

トリテルペノイドは、広範な構造的多様性を持つ天然化合物であり、主に植物由来です。特に、ウルソリック酸やオレアノリック酸などが知られています。これらは強力な抗炎症作用、抗酸化作用、および抗がん作用を持つことが報告されています。ウルソリック酸は、日本の梅などから抽出され、長い間、健康食品として利用されています。我々のグループではウメテルペンという製品を用いています。

2. パルテノリド

パルテノリドは、フィーバーフュー(学名:Tanacetum parthenium)の葉や花から得られるセスキテルペノイドです。別名、ナツシロギクとも言われます。この化合物は、強力な抗炎症作用を持ち、がん細胞の増殖を抑制し、アポトーシスを誘導することで抗がん作用も期待されています。我々のグループでは、亜麻仁油を組み合わせた、なつしろアマニという製品やフィーバーヒュー茶を用いています。

3. フルボ酸

フルボ酸は、古代植物や動物が微生物によって分解された結果生じる高分子量有機酸です。これは、アーユルヴェーダの伝統医学で長く使用されてきたシラジットの主成分でもあります。免疫調節作用や抗酸化作用も持つことが示されており、体内の異物除去による浄化作用も期待されます。我々のグループではプラントミネラルやそのままミネラルという製品を用いており、特に抗がん剤の副作用軽減効果が期待できます。

4. タキサス(Taxus yunnanensis)

タキサスは、抗がん剤タキソールの源として知られるイチイ科の植物です。特にこの種は、中国雲南省などの限られた地域の標高3,300~4,100メートル付近に自生し(平均樹齢 3,000年)、本来は高い木が育たないはずの高山に生息するため、抗酸化物質を自ら産生するなど、薬効成分の多い樹木になったと考えられています。高いタキソール濃度で知られており、がん細胞の増殖を抑制する多糖類を含んでいます。また、アポトーシスを誘導するアルファコニデンドリンも含まれています。我々のグループでは白豆杉という製品を用いています。

5. アップルペクチン

ペクチンは、果物から砂糖やジュースを抽出した後の残留物から得られる物質で、水溶性の植物繊維としての役割を果たします。アップルペクチンは、白血病や多発性骨髄腫、乳がん、胃がん、大腸がんなど、多くのがん種に対して抗がん効果を示すことが報告されています。特に、細胞のアポトーシスを促進し、細胞増殖を抑制することでがんの成長を防ぐ効果が期待されています。我々のグループではりんごの煌めきジュースという製品を用いており、特に腸内環境の改善が期待できます。

さいごに

標準治療に加えて、アルカリ化療法と天然製品を併用することにより、既存の治療の効果を高め、抗がん剤の副作用を軽減することにより生活の質を向上させる可能性があります。しかし、これらの療法が本当に効果を示すのか、そのメカニズムはまだはっきりしていません。上の図では、進行がんで長期生存が得られたケースを報告していますが、これらの療法を受けたすべての方が良くなるわけではなく、どの程度の割合の方に効果があるのかもまだわかっていません。また、天然製品でも稀に体に合わないケースもありますので、医師とよく相談して治療を受けることが大切です。

参考文献)Isowa M, Hamaguchi R, Narui R, Morikawa H, Okamoto T, Wada H. Exploring the Potential Use of Natural Products Together with Alkalization in Cancer Therapy. Pharmaceutics. 2024; 16(6):787. https://doi.org/10.3390/pharmaceutics16060787







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Dr. Hamaguchi(医師、医学博士)

  • 日本内科学会総合内科専門医
  • 日本呼吸器学会呼吸器専門医
  • 日本がん治療認定医機構がん治療認定医
  • ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
  • がんの炎症・代謝を考慮したがん治療やがんに関する情報についての発信をしています。

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