アルカリ化療法(Alkalization therapy)の基本概念
アルカリ化療法は、がん治療においてがん細胞周囲の酸性環境を中和することを目指す療法です。この治療法は、食事の介入や、体をアルカリ化する薬剤の経口または静脈内投与によって実施されます。がん細胞はアルカリ性の細胞内pHを維持する一方で、その周囲の細胞外pHを酸性にします。この酸性環境はがんの進行や転移、多剤耐性などに関わることが知られています。
アルカリ化療法の目的とメカニズム
アルカリ化療法の目的は、がん治療の効果を向上させ、副作用を軽減することにあります。この方法により、TMEの酸性状態をアルカリ性に変化させることで、がん細胞の生存や増殖に不利な条件を作り出します。体のpHは主に食べ物によって影響を受けるため、アルカリ性の食事を摂ることは腫瘍の酸性環境を中和する有効な手段とされています。
臨床での応用
経験的には、アルカリ化療法によってより治療効果が高まった患者さんの尿のpHはアルカリ性(pH 7から8)に保たれていることが多く観察されます。下図は、肺小細胞癌に対してアルカリ化療法を行った結果を示しています。通常の化学療法のみのグループ(control)に比べて、化学療法+アルカリ化療法のグループ(intervention)では、平均尿pHが7以上に上昇しています。また、化学療法+アルカリ化療法のグループ(intervention)の方が、明らかに生存期間が延長していることがわかります(注:なお、この研究ではアルカリ化療法以外にビタミンC点滴も行っています)。
基礎研究では、Na+/H+交換体1(NHE-1)という、がん細胞内から酸性物質を排出するポンプが、細胞外環境がアルカリ化すると活性が低下し、pH 7.5付近で完全に活動を停止することが報告されています。がん細胞周囲のpHを測定することはまだまだ技術的に難しく、尿のpHとがん細胞周囲のpHが一致するわけではありませんが、尿のpHは予測マーカーとして一定の役割を果たす可能性があります。
今後の課題
アルカリ化療法が臨床的に治療効果を本当に改善するかどうかは、今後さらに詳しく検討する必要があります。TMEのpHを正確に測定する方法が確立されていないため、現在は尿pHを代用指標として使用していますが、より精密な測定方法の開発も求められています。アルカリ化療法はがんの代謝特性を対象としたアプローチであり、がん治療における新たな選択肢の一つと考えられます。
Wada H, Hamaguchi R, Narui R and Morikawa H (2022) Meaning and Significance of “Alkalization Therapy for Cancer”. Front. Oncol. 12:920843. doi: 10.3389/fonc.2022.920843