“Frontiers in Oncology”というがん研究に関する国際的な学術雑誌があります。その雑誌の編集者より、「アルカリ化療法」に関する特別号のリサーチトピックの立案とゲストエディターとしての参加を依頼されました。そのため、2021年末より“The Impact of Alkalizing the Acidic Tumor Microenvironment to Improve Efficacy of Cancer Treatment(がん治療の効果を向上させるための酸性腫瘍微小環境のアルカリ化の影響)”というリサーチトピックを立案し、採択されました。
*リサーチトピックの内容は下記*
The Impact of Alkalizing the Acidic Tumor Microenvironment to Improve Efficacy of Cancer Treatment(がん治療の効果を向上させるための酸性腫瘍微小環境のアルカリ化の影響)
がん細胞の代謝は主に解糖作用に依存している。がん細胞の細胞内pH(pHi)はアルカリ性(7.2から7.7)に増加するのに対し、正常細胞のpHiは中性(6.9から7.0)で維持される。さらに、がん細胞は激しい解糖代謝を行っており、ピルビン酸ががん細胞内で過剰になり、アルカリ性を維持するために乳酸に変換されて細胞外へ放出されるメカニズムがある。このメカニズムのために、腫瘍微小環境(TME)は酸性になる。近年、この酸性状態が存在する場合、様々ながん治療があまり効果的でないことがわかっている。肺がん細胞を使用した実験研究では、pHiが0.4上昇するとドキソルビシン耐性が2000倍に増加したと報告されている。酸性TMEのアルカリ化ががん治療に有利な効果をもたらすといくつかの臨床研究で報告されている。
TMEのpHを干渉することはがん細胞に対する潜在的な治療オプションだが、解決すべきいくつかの問題がある。まず、臨床現場では、食事の改善や重曹やクエン酸などの各種アルカリ化剤の投与によって尿pHが増加し、がん治療の有利な効果と関連している可能性があるが、尿pHの増加がTMEのアルカリ化を反映しているかどうかは不明である。次に、TMEのpHバランスと、がんのpH代謝に影響を与える可能性のある遺伝的要因との関連も不明である。さらに、TMEのアルカリ化とがん患者の免疫状態との関連を調査する必要がある。したがって、私たちの目標は、従来の治療にTMEのアルカリ化を加えることで治療成績が向上するかどうか、遺伝的要因や免疫状態がTMEのpHバランスにどのように影響を与えるか、または、影響を受けるかを調査することである。
このリサーチトピックでは、がん治療における腫瘍微小環境のアルカリ化の影響についての理解を深めることを目指している。前臨床および臨床研究の論文を歓迎する。以下の(ただし、これに限定されない)研究トピックに対処するオリジナル研究論文、レビュー論文、システマティックレビュー、ミニレビュー、症例研究を募集している:
・腫瘍微小環境のpH調節の分子生物学的背景
・腫瘍微小環境のpH調節の評価
・腫瘍微小環境のpH調節とゲノム要因との関連
・腫瘍微小環境のpH調節と免疫状態との関連
・酸性腫瘍微小環境を介した薬剤耐性のメカニズム
・食事の変更と腫瘍微小環境のpH調節
・腫瘍微小環境のアルカリ化によるがん治療反応の強化
・がん治療におけるアルカリ化剤の使用
この分野を基礎研究の方面からけん引するH. Lee Moffitt Cancer CenterのGilles氏らやBoston CollegeのSeyfried氏らのグループからも論文が寄せられました。これらの論文は、アルカリ化療法の科学的基盤と臨床応用に関する貴重な知見を提供しており、最終的に合計13の論文が集まりました。
このリサーチトピックは多くの関心を集めており、現在(2024/8/8時点)もアクセス数は伸びています(上の図)。現在、このトピックのVolume 2が展開され、新たな論文の投稿も募集しています。