・がんの特徴:がん細胞の内部はアルカリ性、がん細胞の外部は酸性となっている。
・がんのpHの変化(細胞内アルカリ化)が、がんの発生、進行、薬剤への耐性の全てにかかわっている。
・がんのpHに対する治療は?
がんの特徴:がん細胞の内部はアルカリ性、がん細胞の外部は酸性となっている
以前は、がん細胞は酸性と考えられていました。ところが、最近の分子生物学の発展によって、だんだんにがん細胞の代謝のことがわかってくると、がん細胞は明確にpHの調節を行っていることがわかってきました。
つまり、がんは細胞内部をアルカリ性に保ち、細胞外部を酸性にして、そういう環境で生きているのです。正常細胞は、細胞内部はほぼ中性、細胞外部はわずかにアルカリ性と、がん細胞とは逆の環境です。
がんのpHの変化(細胞内アルカリ化)が、がんの発生、進行、薬剤への耐性の全てにかかわっている
がん細胞内のアルカリ化(pHの上昇)は、細胞膜に発現するポンプの働きによって起こります。そのポンプは細胞内部の酸を外部に排出します。そして、そのうちの一つで、もっとも重要なものがNa+/H+exchanger (NHE-1)です。
がん細胞内pH上昇(つまり、NHE-1の活性上昇)とがんとの関係を下図に示します。
がん細胞内のpH上昇(アルカリ化)は、下記全てと関係します。
悪性変異↑:異常細胞から悪性への変化をすすめる
成長・増殖↑:がん細胞を成長させ、増殖させる
がん遺伝子発現↑:がんの発症にも、進行にも関係するがん遺伝子の発現
成長因子活性↑:がん細胞を増殖させる因子を活性化させる
解糖系↑:がんのエネルギー代謝である糖代謝をすすめる
DNA合成↑:細胞を複製する時に必要なDNA合成をすすめる
細胞周期↑:細胞分裂・増殖のスピードをあげる
アポトーシス↓:異常細胞が自ら死んで排除する仕組みであるアポトーシスが働きにくくなる
細胞移動↑:がん細胞が増殖するための移動能の獲得
血管新生↑:がん細胞が栄養を得るための血管新生
転移↑:がん細胞の転移能の獲得
多剤耐性↑:がんに対する薬物(抗がん剤)が効きにくくなる
がんのpHに対する治療は?
がん細胞内pH上昇のキーであるNHE-1は、アミロライドやカリポライドという物質で抑えることができます。実際に、がん細胞株を使った実験では、がん細胞内pHは低下し、がん細胞は弱っていきます。ところが、人間に対する治療薬としては実用化できていません。
そのため、別の方法として、がん細胞外の酸性を中和する方法、つまり、アルカリ化する方法が有効かもしれません。がん細胞周囲のアルカリ化を目指した研究も活発に行われています。
参考文献)
Harguindey S, et al. Biochim Biophys Acta 2005; 1756: 1-24.