SBM (Science based medicine)とは何か?
SBMは、論文で科学的に証明されたこと(例えば、新しくわかったがんの特徴的な代謝のことや、がんの免疫のことなど)や、がん患者さんの経験や様々な治療経過を集積して、今までになかった有効な治療法を模索していく方法です。
これは、薬剤による治療だけに限らず、もっと広く治療を捉えた考え方です。わたしの師匠である京都大学名誉教授の和田洋巳先生が提唱されたもので、賛同する研究者も増えてきています。
SBM (Science based medicine) とEBM (Evidence based medicine)の違い
SBMとEBMの大きな違いは、帰納法か演繹法かということです。
帰納法とは、さまざまな事実や事例から導き出される傾向をまとめて、論理的に推論していく方法です。例えば、あるがんの代謝について基礎論文で証明されていて、奇跡的にがんが良くなった人たちを調べてみると、そのがん代謝に関係がありそうなことがわかった。そのため、そのがん代謝をターゲットとする方法を考える。これは帰納的な考え方で、SBMの考え方です。
演繹法とは、一般的・普遍的な前提から、より必然的な結論を導く論理的推論方法です。これはEBMの考え方で、「がんが縮小すれば、がんを治療することができる」という前提があって、そこから必然的結論を導き出す考え方です。
EBM (Evidence based medicine) の問題点
がん治療は、EBMの手法でずっと行われてきました。がん治療は少しずつ進歩していますが、進行がんにおいては、「治る」あるいは「長期的な生存」を見込めるケースはまだまだ少ないのです。
これは、EBMにおけるがん治療の「がんが縮小すれば、がんを治療することができる」という前提が間違っているのかもしれません。前提を間違うと正しい結論が得られない、これが、演繹法の問題点です。
例えば、薬剤でがんが縮小あるいは消失したとしても、数ヶ月でまた大きくなってしまうのなら、やはり延命の効果しかないでしょう。
しかし、がんが全く縮小しなかったとしても、ほとんど大きくならないという方法があるかもしれない。あるいは、体調によって大きくなったり、小さくなったりということを繰り返す場合もあるし、それを目指す方法があるかもしれません。実際に年単位で腫瘍の状態が変わらなかったり、腫瘍マーカーがアップダウンする方もいらっしゃいます。
つまり、「がんを縮小させる」という前提が単純すぎるのかもしれません。がんが奇跡的に改善した事例や、がんの縮小に関わらず、長期的生存の事例を考慮した治療の考え方が必要なのです。
SBMからEBMへ
現在のがん治療では、進行がんの多くを治すことができていない一方で、奇跡的に治る人もいます。このような奇跡的に治った人たちのことは、運が良かったと喜ばれるだけで、例外としてほとんど詳しい調査はされてきませんでした。
けれど、このようなケースをしっかりまとめ、集積し、調べるべきです。分子生物学の発展により、その仕組みと関連するような基礎医学的事実が報告されているかもしれません。
そして、このように帰納的に集めた事実から仮説を立て、SBMの考え方で治療を組み立てるのです。それを元に臨床試験を行い、EBMの手法で治療法として確立していくことが大切です。
今までのように、がんを治すことのできない古い仮説で臨床試験を繰り返しても、少しずつ延命期間が延びる以上の結果は期待できないでしょう。だから、新しい治療を行うためには帰納的な考え方であるSBMの手法は重要です。