がん治療に感じていた疑問
わたしは、がん治療を行いながらずっとスッキリしないモヤモヤしたものを感じていました。
はじめて主治医としてがん治療を行ったのは10年以上前のことです。呼吸器内科医でしたので肺がんの治療です。がんの治療にはガイドラインがあり、それに従い治療を行います。
しかし、当時の抗がん剤の効果はせいぜい数ヶ月の延命です。抗がん剤には副作用もあるし、患者さんにはそれぞれ治療に対する思いがあります。それなのに、専門家として提案できることは、延命のための抗がん剤をすすめることだけでした。
それしかないから、副作用がつらくてもやるかしない。ガイドライン通りの治療をするだけ、本当にこれでいいのかとモヤモヤしていました。
和田洋巳先生との出会い
抗がん剤治療を続ける中、不思議に思うこともでてきます。同じような病状で、同じ治療をしているのに、治療の効果が全くちがう患者さんがいる。抗がん剤治療を行っていないのに、がんの進行がとてもゆっくりな患者さんがいる。上司に聞いてみても、確かに同じようなことがある。個人差だろうという話になるが、どうもしっくりこない。
そんな中、京都のクリニックでがん治療を行っている京都大学名誉教授の和田洋巳先生にお会いする機会がありました。実際にいろいろな患者さんの治療経過をみせてもらうと、非常に良い方が多いのです。
そのときに和田先生から教えて頂いたことは、「がんには正常細胞と異なる代謝があるのだからそれを抑えてあげて、なるべく炎症を減らし、免疫を働かせて、上手に抗がん剤を使っていく」ということでした。
目標はがん治療をアップデートすること
2013年から和田先生に師事し、現在は日本がんと炎症・代謝研究会研究班の一員として少しずつ研究活動も行っています。
ガイドラインに従ったがん治療は非常に重要です。しかし、ガイドラインにはないけれど、良いかもしれないことはたくさんあります。そして、患者さんの治療に対する思いもそれぞれ異なります。だから、ガイドラインにないことをすぐに拒絶するのではなく、メリットとデメリットを考えた上で行っていきたいと考えているのです。そうすることによって、がん治療は少しずつ進歩していくと信じています。